白雲の道治療院

白雲の道治療院は、鍼灸術と量子場調整を用いて心身の健康面の向上、さまざまな症状や機能の向上、能力の増大に努めております。

白雲の道で美しく健康な体を!

CODE 064 2012-10-16 153931

No.064 - 第六章 接触 8

支配の中の自由

 トロンとユキ子は週一度、スポーツクラブでのデートを重ねている。スカッシュ仲間である「真理の種」のメンバー7人、それにミヨ、ショウもトロンが「創造の戦士」の一員である事を知った上で彼を友人として受け入れた。

 いづれ、トロンもナザレの存在を知ることになるのを承知の上で、彼を受け入れたが、つい先日 シュタインからの指令がトロンにも届き、その事を知る時がやってきた。

 彼はユキ子の仲間が、出会うべき、結社ナザレの一員であることを知らされ、どのようにみんなと関わって行くべきかを考えていた。
 
自分達が、物心ついたときから訓練に訓練を重ねてきたのは、忠誠と真実を尽くす精神の強さを得る為であり、その訓練の中で伝説の人のような人間として、ブライアンからショウの話を聞いていた。その人物が今、転生して身近にいる。
 
シュタインから、重要人物であるらしいこの男は、「今のところ敵でもなく、味方でもないが、十分に気をつけるように」とも言われた。

 トロンは一人、高層の窓からひしめくビル群を眺めながら思考を巡らしていた。
 十分に気をつけるようにとは、彼らは我々にとって危険な要素を持っていることになる。これは何を指しているのか。
 
そもそも結社ナザレはどのような組織なのか、ブライアン以外誰も詳しく知らない。100年ほど前にある修行をしていた秘密結社と聞いているが、どのような内容だったのか。
 
ブライアンは我々を東京に派遣したとき「人間の真実を探求せよ」そしてナザレの人間に遭ってもらいたいとも言っていた。
 
では、ナザレは何がしらの人間の真実を知っているのか。その真実とは何なのか。オカルト的な修行をしていたらしい彼らに我々には無い真実があるというのか。

 マンションの窓を開け放し、外を見下ろすと東京を一望に見回すことが出来る。その風景はスイスの地下都市ほどの重厚な趣と科学的に進化した快適な安らぎはなく、壊れやすいガラスで出来た世界の様に見える。

だが太陽や星星、点在する町の光に彩られ美しいと思った。特にその夜は大きな月が、ユキ子とトロンの人生を彩っているかのように静かに輝き、その中に、今までの生きてきた自分のひたむきな人生と、ユキ子が生きて来たおおらかな笑顔が交互に重複していた。

 彼が創造の戦士に参入したのは、13歳の時でその時から外側世界に興味があった。特に自由には強いあこがれに近いものがあり、その自由をつかむために、人知れず過酷な創造の戦士に挑戦したのだ。
 
その時、教えられていた世界構図では、人々の姿は自由がない事にも気がつかない力の抜けた羊の群れが放牧されているだけの一つの世界だった。彼らから学ぶものは、何一つなく、彼らが必要なものは、全てこちらの計画の中で与えられている。

スイスの地下400メートルの深くから世界をコントロールしているのはブライアン率いる自分達の勢力であり、実際にトロンにとっても、ここ20年の変化は劇的なもので世界地図が外側の人類にとって自由のない世界に変化してきたのを観ながら育った。


この地下社会の住人は自由の考え方がないわけではないが、誰もその事に価値を見出そうとは思わない。それはちょうど飼いならされ、欲を満たされたた家畜やペットが自由の価値を心の片隅にも思わなくなるのと同じなのかも知れない。

 この点においてトロンは異質だった。ブライアンが自分達を「創造の戦士」と呼び、自身の真実を探求せよといって東京に行くように指令を出したとき、心の底から喜び歓喜した。だが、一抹の不安がなかったわけではない。
 
「ブライアンは本当に我々に自由と個々の真実を探求することを求めているのか」

 スイスの本部では科学居住者、工作要員の居住区区分を明確にし、我々支配者と支配される人間、その間にも多くの管理システムが厳しく管理されながら稼動している。
 
その中で、自分達「創造の戦士」には「自己の真実を生きろ」という。ブライアンはどこから見てもすばらしい指導者だと信じて疑わないが、トロン自身の心に思う自由は、支配の中にあるものではない。

 この事を、仲間の誰にも話した事はないし、また話せる内容でもなかった。
 創造の戦士達は今まで、みんな仮想の敵同士の中で訓練され、忠誠を尽くす相手はブライアン閣下であり、世界を支配している組織全体にある。
 彼らはお互い徹底した個人主義であり、いつ自分の敵になるかもしれないライバルであるからだ。
 この創造の戦士達は高度に統率されたチームワークが個々の意思を超え、いつでも編成できるように訓練されてきたが、その仲で友情関係は育たなかった。

 その組織への複雑な思いとユキ子への愛、ナザレの人達への思いが、微かな自由への憧れと一緒になっていつの間にか彼は深い眠りに落ちていった。