白雲の道治療院

白雲の道治療院は、鍼灸術と量子場調整を用いて心身の健康面の向上、さまざまな症状や機能の向上、能力の増大に努めております。

白雲の道で美しく健康な体を!

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No.066 - 第七章 愛 3

生きたい

 ブライアンの本拠地であるスイスの地下都市のほぼ中心、科学者居住区にミュウという女性がいる。彼女は遺伝子操作によって生まれ、2019年の現在45歳。

 1980年の頃、この地下都市では遺伝子上の基礎的な研究が実用段階に達しブライアンの乗り移るクローンやミーナ、創造の戦士など多くの者達が生まれ出ていたが、その5年ほど前から人間の身体を使った前駆的な遺伝子操作の実験が盛んに行われていた。

 この実験はどこでも遺伝子学の進化がそうであるように多くの失敗作たちが生まれ、生ゴミの様に処分された。その中で処分されるべき失敗作だったが生き延びた一人がミューだ。

 彼女は、多くの天才科学者の遺伝子やミヨやブライアンの遺伝子など、あまりにも多くの遺伝子を継ぎはぎされたものだから、遺伝子そのものが変異を起こし、心と身体が遊離し安定しない状態になっていた。そのために何度も処分勧告を受けたが、不思議にその中で生き延びた。
 
この遺伝子操作実験で求められていたことは、一定のレベル以上の人間の意志と形を有している事、もう一つは意図した才能の質が現れているか否かだった。

この点、彼女はいつまで経ってもその素質が現れてこない。それだけではなく、どこを見ているかわからないほど、意識がさ迷ったままだった。
 
処分されなかったのは、誰かが助けたのでもなく、評価する項目の中で一つでも高得点があったからでもない。その要因は、彼女自身にあった。

 幼児の初期の頃から、誰も気がつかないうちに無意識層から人や状況を操る力が自然と身についていたのだ。
 ブライアンの天才的な能力である複雑な関係性や状況を見極め、人の心理を操ることだが、その能力が潜在しているところで既に活性していた。だが、そのことに科学者たちは気がつかないでいた。

 実際は彼女の意識は無意識レベルには合っていたが、3歳になっても話すこともせず、普通の子供がするような遊びもせず、目も虚ろで意識の焦点が合っていないように見える。


 この場合、遺伝子操作上の失敗作とみなし普通、処分の対象になる、しかし彼女は自分を彼らに処分させなかった。言葉や行動を介してではなく、彼女の意志を科学者達の深層意識に働きかけて心を操ったのだ。

 年齢を重ねるに従って、彼女の中の天才的な遺伝子が花を咲かすように開き、今では科学者グループの中の中核的な存在になっているが、誰も気がつかない方法で人に行動や決断を迫る潜在した能力が彼女の中で進化していた。彼女は、それを表立ってまだ誰にも示したことはない。
 

自分自身の中にたくさんのひらめきがやってきてはいた。その能力の幾分かは仕事に応用したが、そのほとんどは自分の脳のニユーロンの中に量子的な技術を構築していた。その技術をひけらかす事は一切した事は無い。

 現在の彼女の能力は組織を操る事も学術的にも、この科学者集団のトップに躍り出る事ができるが、その様なことには興味が湧かなかった。
 
彼女から観ると、周りの人間はみんなオーケストラの一員か楽器のようで、指揮しているのは自分であった。
 
だから周りの人間を自分の欲求に従って操作するのは簡単だったが、その様にしなかったのには、自分が人生において何を求めているのか定かではなかった事と、もう一つの理由がある。
 
それはブライアンが目の前に高い壁の様に立ちはだかっていたからだ。

 10年ほど前に一度「自分に留意するように!」という意志をブライアンに投げかけてみたが、彼は何食わぬ顔で、無視した。その時の彼女の恐怖はただ事ではなかった。それまでに、その様な人間は誰もいなかった。
 
「ひょっとしたら、自分の能力を見抜かれたかもしれない。もしその様な事になると抹殺される」

 その後何も起こらなかったが、その恐怖は今だかって続いている。

 
その時から、複雑な外側の世界から自分自身にも気持ちが向けられていた。

「私は多くの優秀な遺伝子をつぎはぎにして創られた、ある意味実験人間だ。しかし普通の人間として生きたいと思う気持ちは人一倍強い。今までにも周りの科学者達が幼い私を観察し、彼らが処分を考えていたときその思考を読んで、その度に必死になって彼らの思考や行動を捻じ曲げた。
 
まだ言葉もわからない混沌とした意識状況で、「生きたい」と心の中で叫んでいた。あの時なぜそれほどまでに生に執着できたのか。
 
内側に居住している周りの忙しく動き回る科学者達の思考を覗き込んでも、生きることにそれほどの執着があるとは思えない。みんな淡々と生き、熱い思いで議論などしているものは皆無だ。
 
外側に住む工作要因や殺し屋集団は感情を露わにして叫ぶ。しかし彼らは生きている間に少しでもおいしい体験をしようとやっきで何のために自分が生きるているのか等と考える人々ではない。
 

その両方を統括管理するブライアンは20年もの長い時間をかけ自分自身のクローンを育て、それに乗り移った。見かけは39歳だが、120年を精力的に生きている。

その執着は、彼なりの人類愛なのか、それとも生への理解なのか、それとも彼自身の欲望なのか今の自分にはわからない。
 
自分の心の中に吹き込んでくる無意識からの風、子供の頃から知っていた虚空の世界からの言葉、それは「生きろ!」と叫ぶように聞こえていた。何故かわからないまま必死になってがんばっていた自分がいる。その意味はいつかわかるに違いないと思って今まで心の奥にしまっておいた」

 その思いが、あるきっかけで決着した。
 最近、ミーナがこの地下都市から地上に出て散歩していると聞いて、ミューも地上の森の中を散歩する事をはじめた。ブライアンは世界を含めて敵らしい敵がこの世には存在しないほど、征服していたので地上世界への散歩を科学者居住区の上級住民に少しずつ許可していた。

 その深い森の中、散策の途上、ミーナとすれ違った。そのちょっとした時間の間にミューは彼女の意識している世界を自分の身体に映し込んだ。
 
その時、ミューの心の内側に意図しない事が起きた。
 
子供の頃よく見ていた虚空の世界が青い地球を包み広大に広がっていたのだ。

 「あっ...」

 その一瞬で、ミューは理解した。長い間誰にも問いかけた事のない、心の奥底の問い。
その答えを、知った。

 
このミューが、ブライアンの完璧に見える世界支配を溶解させる突破口になる。