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No.003 - 序章 2
変化の兆し
あのオヤジに逢ってからそれまで考えもしなかったいろいろなことを考えるようになっていた。
例えば私は今まで世間をあまり意識することはなく、どちらかというと自分の置かれている世界から抜け出したいと思っていたところがある。
子供のころは非常に活発な運動能力と知力を併せ持ち、まわりを驚かせることも多かったが10年前、17歳のときのある事故で顔面を強打し前の歯もほとんど失い、その後の治療で何とか見られるほどにはなったが、それからというもの、いろいろと頑張ったのだが以前の能力が消えてしまった。唯一の残った能力は静かに物事を見つめ、その本質を貫く力と奇想天外の想像力だけだった。
あれほど、きらきらと輝いた日々を思い出すのは私にとって、苦痛でしかない。
そのせいか他人や世間にあまり興味をもてなかったし興味をもたれる人間でもなかった。
しかし最近視力が高まったわけでないのに、周りが少し明るく見える。人や風景、人ごみまでも以前より興味をそそる対象になっている自分に気がついた。
その原因はひょっとしたらあのオヤジにあるのではと、その思いが日増しに「きっとそうに違いない」と思うようになっていた。
この世界を興味ありげにあのギョロメで見つめ、物事の本質がここにあると直感する自分流の量子世界のたわごと話をしても、腹の底から笑うオヤジ、それに「現実のシフト」という妙な言葉を残していった。
あの事故で失った大好きだった父母が引き合わせたのかとも思った。
明るく見えるというより鮮やかに感じるのだ。
自然、自分のからだも鏡で見ることが多くなった。今まで朝起きてかみそりでヒゲを剃る時も顔をわずかに覆っている髭しか見ていなかった。
まじまじ見てみるとなかなかいい顔をしているのかもしれないが、ちょっとその風貌に調和がない。はじめの頃、これが自分の顔なのかといぶかしがる時さえがあったが、気にしてよくよく見るうちに顔が微妙に変わってきたように思う。
前と比べると目や眉毛がより黒々と生き生きし、身体もひ弱で情けないが、意識するようになったせいか全身の皮膚に艶らしいものがわずかに光っている。以前はそこにある物体のようにしか感じたことがなく、そのようにしか扱ったことがない。顔と同じように風呂に入っても身体にまとわりついた邪魔者としての汚れや垢しか意識していなかった。
身体の中にも微妙な変化を感じていた。興味のある対象を見ていると、同時に身体の中にも微妙な淡い光のような粒子が活気ずく。こんなことは普通の人がそうであったのかも知れ得ないが、自分には初めて気がついた体験だ。
そんな自分がこの現実世界に夢を見始めていた。あたかも視点が反転して異次元空間から現実世界を見ているかのように。しかしその夢見は今までの空言とは違いすこしずつ現実との関係を作り始めた。