白雲の道治療院

白雲の道治療院は、鍼灸術と量子場調整を用いて心身の健康面の向上、さまざまな症状や機能の向上、能力の増大に努めております。

白雲の道で美しく健康な体を!

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No.001 - 序章 1

夢を追いかける者

 今から12、3年前のちょうど今日のような、暑苦しい深夜、私は行きつけのバーで一人カウンターに覆いかぶさるように肘を立てて飲んでいた。ほろ酔い加減で身体の隅々がすこし重みを増し地に足がついたかのゆったり感を楽しんでいたとき、その後ろから、見慣れないむさ苦しい風貌をしたオヤジが声をかけてきた。
 
唐突に「お前が今何を考えているか当ててやろうか。」
 いい気分で自分の世界に浸っていたのにその世界を侵された不快感がよぎったが、「当てられますかね」とその答えに期待していた。
 
「パラレルワールド、平行宇宙について考えていたな!」
 背筋がヒヤリとするのを感じた。その当時大学院で量子力学を学んでいたが、いまいちこの量子論が空理空論の果てしいない連続に思えて興味を失いかけていた。

 そんな中にいて子供っぽいと感じながらも「体ごとの瞬間移動ができたらなー」とちょうどパラレルワールドの可能性をいい気分で追っていたのだ。

 相手が自分より30歳ほどは上のむさい、わけの判らない年配者でもあるせいか、驚きながらも押し黙っていた。次に何を言い出すか、不思議におおらかな気分の中で待っている自分もいた。
 「図星だろう」と一言。
 その顔は目がギョロ眼である以外はそれほどの特徴はないし、その表情もこちらの答えを期待している顔でもない。体は小柄でむっくりしているが、よく見る
と地味な洋服の上からしっかりと引き締まったからだを見て取ることができる。

 今思うとこのような年配者から量子論の中でもとっぴな概念が飛び出した事に不思議だと思わなかったことも不思議だ。パラレルワールド、直訳すると平行宇宙。いろいろな解釈があるが一般的にはこの私たちが住んでいる現実のほかに並行してたくさんの世界が同時に存在するというちょっとしたSFマニアなら誰でも知っている概念だが。
 
「うれしいですねえ。図星ですよ。そんな顔をしていましたか?」
 「教えてあげよう、並行世界は議論することではなく、シフトすること以外に意味はないのだよ」

 まるでこちらの答えなど、当たり前のような表情で勝手に好きなことを言って自分を楽しんでいるようだ。話を聞いている内にだんだんとわかってきた気がした。「この人はちょっと物知りの酔っ払いだろう」


 私もだんだんと酔いに任せて知っている限りの量子論に自分流に輪をかけてをぶちまけた。驚くことにこのオヤジは私の内容はともかく私の表情や手振りを見て腹のそこからクックっクックと笑って聞いている。
 
そんなオヤジがだんだんと、とてもかわいいオヤジに見えてウキウキ舞い上がり、私はこのオヤジが好きになった。
 こんなことは自分の暗い空理空論、いや空回りと言ったほうがよいほど人生の中で久々にギヤが入った自分を取り戻したつかの間の時間だった。
 今の私に自慢できる仕事も気心が知れる彼女もなく、奇想天外の夢と叔父が残してくれた東京の一間のマンションだけを頼りに何とか生きている。

 数時間がたっただろうか。酔いの回った意識の中で大切な問題を思い出した。
 「先ほどのシフトの話ですが、それはこの世界と違う時空間にですか?」
 「そのように考えるのは量子論からすると必然だが、そんな事を考えているといつまでも他人の空言で終わってしまう。自分の体を含めた今、この瞬間に目の前にある現実をシフトする事なのだよ」
 その現実のシフトという言葉が心の中に何となく心地よいエネルギーを伴って沈んでいくのを感じていた。
 
そのオヤジが「そろそろ帰るとするか、またな!」と言って、立ち上がり名前も聞かないうちに帰って行き、その後姿をうっすらと光が包んでいるのを目にしていたが、錯覚だろうと思いその視覚を楽しんでいた。

 その後毎日のようにそのオヤジに会えるのではと、同じ時間そのバーで安酒を飲んで待っていたが会えることはなかった。
 彼のことはなかなか脳裏から離れなかった。しかし忘れかけた数年後のある日ひょんなことから思いもよらぬ形で出会った。そのときから人生がひっくり返ったのほどの激変が始まった。