白雲の道治療院

白雲の道治療院は、鍼灸術と量子場調整を用いて心身の健康面の向上、さまざまな症状や機能の向上、能力の増大に努めております。

白雲の道で美しく健康な体を!

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No.077 - 第八章 策謀 6

心の弦

ダイアンは疑似体験装置が設置されている自宅の地下で、創造の戦士達の様子、特にトロンの日常生活や修行時の意識や身体の使い方などを克明に調べていた。
 
しかしどう考えても、その修行の中には、人の生命を奪う力は考えられず、ほかに何か秘密が有るにちがいないと推論した。
 
そのため、ダイアンは、トロンを部下としてではなく友人としてもてなし、その秘密を探る駒にしようと考えた。
 
彼は非常に策謀に長けているが、その事に全く気がつかれない人当たりの良いところがある。それは驚くほどで、いつしか誰しもの心の弦を優雅に弾き始める。そこにダイアンの妻や子供もぴったりと波長を合わせてくる。


 彼の家は、広い敷地に一般住宅と同じように建てられ、いくつかの一般的な施設がつくられていた。目につくものは子供の遊び場としての迷路のようなものがあり、そのわきにはプールやテニスコートがあり、スカッシュコートも併設されている。
 

スカッシュは、スイスの地下都市では誰しも興じている競技の一つで、ここでもダイアンは創造の戦士達や管理集団の屈強な殺し屋連中を呼んで楽しんでいたが、その日はトロンを誘って興じ、そのあとに彼の妻の手料理をワインを飲みながら談笑していた。

 
「トロン、僕は、いつも驚くんだけど、君の動きはどうしても読めない。どうしてなのかな」
 「それは、僕が恵比寿のクラブでショウとプレイして居る時に感じる事ですよ。ちょっと嬉しい褒め言葉ですね」
 
「君より、素晴らしいプレイヤーが居るとは思えない。ショウの事は何度も聞いているけど、一度会いたい男だね」
 
「一度会うべき人だと思います、、、」

 「そうか、僕は、この東京に来てとてもよかったと思って居るんだ。今までの仕事は正直きつかった」
 
「そうでしたか」
 
「、、、トロン、僕に敬語はいらないよ。君には敬意を持っているんだ。あの過酷な訓練を超えた戦士だからでもあるけど、何よりもあのプレイの無駄のない動きはほれぼれとするほど好きだよ。君とは仕事や組織の事は全く抜きにしようと思っているんだ。どうだい?」
 
「私はうれしいですが。組織上難しいのではないですか」
 
「いや、そんなことはない。ブライアン閣下にもその事を話した。」

 「えっ! 私の事をですか...」

 「そう。閣下は創造の戦士はもともと組織上の者たちではない。私の人生にはなかった誠意と自由を彼らには生きてもらいたいと思ってのことだ。「君が思うならトロン君にそのように伝えるがいい」とおっしゃってくれた」
 
「そうですか。それは嬉しいですが.」
 
「僕もうれしいんだ。組織を抜きに話せる友人や時間は僕にとってスイスでは皆無だったのだから」
 
そこに、ダイアンの奥さんが入ってきて加わった。
 「よかったわね、あなた。この人は最近トロンさんの事でいっぱいなのよ。焼けちゃうわ」

 「こいつは、いつも嫉妬ばかり起こしているのさ。」

 「あなた、ひどいこと言うのね! スイスの奥さんのことなんか焼いていないわよ」
 
「わかってるよ。僕が悪かったよジュエリー.、、、そうだ、今度トロンの彼女と四人で一緒に飲む機会を作ろう。いいだろ?」

 ダイアンはこんな痴話喧嘩を策謀の中に組み込むのが好きな男だ。

 トロンには、心に引っかかている事があった。自分が本部に監視されているらしい。それが何なのか、またなぜなのか。その事がダイアンからの友人としての誘いに素直になれない影を投げかけていた。


 彼が、幼いころ創造の戦士に挑戦したのは、自由を求めてのことで、その過程で挑戦した多くの同僚が、その訓練の中で悲惨な最期を遂げている。

 その中では友情は育たなかった。

 隣人は時として敵になり殺しあわなければならない状況がたくさん作られたからだ。
 
そのサバイバルで生き延びたのは、友情ではなく、徹底した個的な自己管理と訓練にあったのは明らかなことだった。
 ブライアン閣下やダイアンが、自由や友情を強調するのは、どこか不自然な気がしてならない。しかしこのナザレとブライアン結社が本当に協調できるのなら、素晴らしい世界が開くような気もする。

 トロンは、そのような事を考えながらマンションに帰り、ナザレの技術を身体に映しながら一心に練習した。最近、この技術の進歩に思うところがたくさんあり、心を打ちあけ、話せる友人が欲しかったのも事実だ。

 その事をダイアンは計算し、その心の甘さに入り込もうとしている。