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No.058 - 第六章 接触 2
被害
東京羽田のブライアン拠点では、ここ数ヶ月あわただしくなっていた。
ショウに脳を梗塞された工作要員の4名が回復し、リョウコやサヨ子、愛ちゃん、そしてショウの正体がだんだんとわかってきたからだ。
その捜査はここ数ヶ月、羽田の拠点の惨事を中心に行われていたが、スイスからの指令で恵比寿のスポーツクラブを調べている時に、偶然にリョウコや愛ちゃんらしき人間を見つけたのだ。
その糸口から銀座にターゲットが絞られ、羽田の拠点が活気付いていた。
リョウコや愛ちゃんがスポーツクラブの後どこに帰るのか、その後をつけると、毎回銀座のミヨとショウの経営している治療所に消える。
初めの頃、彼らはスポーツクラブに寄った後、身体の調整で通っているマッサージ屋だろうと考えていたが、毎回、いつまでたっても出てこないので、調査することになった。
その調査に、前回の工作要員4名が回復を待って向けられたが、彼らはショウに恨みを持っているものの、あまり出合いたい相手ではない。
もし、そこにショウがいるとなると、あの一瞬でひどい目にあった能力に、どんな準備をするべきかもわからないからだ。
彼によって、手も触れずに4人とも脳を梗塞され意識を長い間失っていた辛い日々を思うと気が重いのだ。そのために、彼らは殺し屋要員に様子を調べるように依頼した。
彼ら殺し屋要員は、一般市民を非常に舐めてかかっている連中だ。ブライアンのチップ支配する世界の中、彼らに天敵はいない。彼らの感情の赴くままに人殺しをしたとしても、その誹を咎めるものは彼らの上司しかいない。
上司はそんな彼らを咎めるのは部下の被害を受けないたくないからだ。
部下は本能むき出しの猛犬であっても許されるが、飼い主に噛みつくような態度や、無能な狂犬であるとレッテルを貼られるなら、ひどい仕打ちが待っている。
だから、彼らは、例外なく上司にだけは必要以上に気を配り、上司が見ていない状況を確認したう上で、本能むき出しの行動をとる。それが彼らの人生の醍醐味であるからだ。
そのような、殺し屋が5人、銀座の治療所の近くに陣取っていた。
リョウコと愛ちゃんがスポーツクラブから帰って、施術所に入ったのを確認し、その数分後、そのドアから無造作に中に入っていった。
彼らの中のボス格が、
「お前ら、彼女達を探して連行しろ。俺はここで待機している」と入り口で他4人に指図した。
ショウは、そろそろ店を閉めようとしていた矢先、真正面から彼ら4人とショウが出くわした。
「お、おい!いま二人の女が入ってきただろう。彼女達に話がある。出せ!お前に用はない。」
「何だ、お前たちは。知らんぞ」
「しらばっくれるな!今ここに入ってきた女二人だよ。」
「だったら、探してみな。だれの事だ。今、仕事が終わって閉めようとしてい
たところだ。中にはだれもいない。」
待合室、施術室、トイレしかない小さな施術所だから、ベットの下や部屋の隅々
を調べても数分で終わる。
「どこに隠しやがったんだ!」
「隠すといったって、どこに隠せるんだ」とショウはとぼけた。本当は本棚の
後ろに巧妙に仕掛けた隠し部屋がある。その中に彼女達は入ってドアは閉めてあ
る、そのドアを開ける仕組みは普通わからない。
外で待っているボス格の男を呼んで
「どこを探しても、ここの先生一人しかいませんぜ。どうしましようか」
彼らには、ショウの事は聞かされていない。
「なに!お前らも確かにここに入ったのを見たんだろう。押入れや、天井、トイレも探したか。もっと探してみろ!」
彼らは、少しいらだちながら、ベットや机、棚などを手荒にひっくり返し探し始めたが、何も見つかるはずもなかった。備えつけの分厚い鉄骨で装備されている本棚はそう簡単にはひっくり返せるはずもない。
彼らがいらだちの中で手荒に探しているのを、ショウは見ながら名案を思いついた。
今のショウの能力は、手を触れずとも彼らの身体の細部にわたって彼らの量子場を変化させ、身体能力を一時的に活性、不活性のどちらでもコントロールすることが出来るようになっている。
以前のように脳を不活性にして、梗塞を起こさせた時は自分にもその影響が反射しショウ自身も大変だった。しかし、瞬間移動さえ可能にしている現在のショウにとって、同じようなことをしてもほとんど影響を受けない。
彼らの一人が、力いっぱい天井の板を剥がしにかかった瞬間、彼の腕力をコントロールして隣にいる男にその板が思い切りぶつかるように力の度合いとタイミングを計った。
厚さ20ミリほどの普通の天井板だが、バリッと剥がれ、隣の仲間の顔に鋭角にまともにぶつかったので、その男はもんどりうって目の上から血がドバっと流れ落ちた。
「何しやがるんだ。バカヤロ!」
その騒ぎを聞き、おもむろにやってきたボス格の男が、その男を覗き込んだ。
その時、顔から血が流れ落ち、目の前が見えなくなっていたその男が、血を拭い
落とそうとした瞬間、彼の二の腕を活性し、感情からの力を思い切り爆発させた。
その怒りがこもった肘が肘鉄砲のようにボスの眼球にめり込んだ。
「このヤロウ!わざとやりやがったなぁ、、、、、、、、、、、、」
あまりにも、勢いがあり、力が強くまともに肘頭が眼球を真正面に直撃した。
この一撃でボスの片目が飛び出るほどひどくつぶされ、彼はもんどりうって悶絶
し、「殺してやる。。。コノヤロウ。。。。。」とうなった。
少しはなれたところで、ベットの下を覗き込んでいた男が、この騒ぎに駆けつけた。ショウはその足の筋神経状態のタイミングを計り、急に活性したので、その男はよろめきながら突っ込み運悪くボス格の顔を直撃してしまった。
「お前達グルになっていやがるな!み、みんな殺してやる。。。。。」と言ったものの意識が今にも消えそうな状態だ。
この4人は顔を見合わせ「やばい状況になったのを察した。どうしたらよいか。このままボスを連れて帰ると、自分達が危ない。4人の中の二人は「いっその事、ボスを殺してしまおう」と思ったが、彼らの中にその決断を促すボスがいない。
彼らはこの一連の偶然がショウの干渉だと気づくすべはなかった。4人組の工作員はもし、ショウがいるなら送った殺し屋5人が、みんな脳梗塞にされるに違いないと彼らを見守っていたのだ。だから当然の事、彼らにショウのことは黙っていた。
彼ら殺し屋達は、ショウの存在をすっかり忘れてボスの機嫌を気にしながら、抱きかかえるように、出て行った。
この一部始終を本棚の奥ではドキドキ、ハラハラ見守っていたが、終いには笑こけるものばかりになった。
だが、荒らされた、治療所を見て自分達に迫っている現実をヒシヒシと感じていた。