CODE 055 2012-09-29 014250
No.055 - 第五章 対峙 12
トロン
ブライアンが長年かけて育てあげた、創造の戦士たちが、それぞれの環境の中 少しずつ東京になじんできていた。
彼らは、人類の管理や不良分子の駆除の為に送り込まれたのではなく、彼らの自身をこの世界で模索せよという事だ。これはブライアンの過去の罪滅ぼしでもない。ブライアンなりの、自身の探求と挑戦だった。
ある者は高級ホテルを長期間キープして歩き回り、東京の人間の特徴や習性等を傍観的に観察し、これから何をしようか思いをめぐらし、ある者はそれとは逆に小さなアパートを借り、周りの人間に溶け込もうとしている。
また、ある者は日本の総合格闘クラブに加入し、自分の身体を鍛え治そうと必死なレーニングに時間を費やしている。他に奇想天外な試みをしている者たちもいるが、ひとまず、みんなこの東京にそれぞれの生活の足がかりを作った。
彼らから一般社会の人間達を見ると、羊の群れ以外の何者でもないし、 ブライアンの送り出した管理者集団が、群れの中に紛れて暗躍し、支配に邪魔な人間を捕獲し、好きなように食べてしまう狼のようにも見える。
彼ら創造の戦士達は、 間引きするように抹殺する狼達と比較すると、生まれがまるで違っていた。
その彼らを子供達を見守るように見るブライアンと彼らの擬似体験の目を通して、自分もこの東京に参入しようと目を凝らして見つめるニーナがいる。
この2人の見ている擬似体験画像にちょっとした異変があった。
それは、「創造の戦士」の一人、トロンが広尾のスポーツクラブに入ったところなのだが、その画像に乱れが起きている。量子場解析装置の故障かと調べてみたが、異常ではないとの事だ。
不思議な事にトロンがその建物に近づくと画像が乱れ、中に入るとその画像はほとん見えなくなる。技術部はここに何らかの量子的な場が張り巡らされている可能性をブライアンに報告してきた。
外側社会では、いまだ量子的な干渉波を作り出す技術はない。この技術はブライアンの独占的な技術でそれらしい発見、発明をことごとく破壊してきたからだ。
その場はミヨが数年前から量子場の探索装置に触れないように、結界を張り巡らしていたものだが、この量子場解析装置が乱れとして反応している。
ブライアンは羽田の拠点にこのスポーツクラブをすぐに調査するように、またスイスの技術陣にこの干渉波はどのようなものか、またどこから発しているのかを詳しく調べるように指示した。
トロンはスポーツ好きな好青年で、最近このスポーツクラブでスカッシュ競技を始めた。スイスの地下都市でもスカッシュ盛んで、多くの若者は好んでこの競技を楽しんでいる。中でもトロンはスイスの地下都市きっての使い手だった。
クラブに加入して数週間しか経っていないが、このクラブのスカッシュ愛好家が目を見張るほど強いのでちょっと目立つ存在になりつつある。
ここにショウや真理の種のメンバーはじめ数名のナザレのメンバーが参加しているがトロンも結社のメンバーもまったく、その事に気がついていないでいる。
格闘技好きのユキ子彼はトロンを見るなり、その強さと美しさに惹かれ時々観戦していた。その事に気がついたトロンは彼女に、「ご一緒にどうですか」
と話しかけたのが きっかけで二人に中が急速に接近している。