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No.050 - 第五章 対峙 7
共鳴
スイスの山奥地下400メートルほど地下都市の中心部付近に広大な空間を占有した優しい光に包まれた居住空間がある。そこにブライアンとニーナが一緒に住んでいる。
その中の一室に、他の居住者が観ている立体テレビよりも高度に進化した立体映像システムが設置され、ブライアンとニーナは創造の戦士50人ほどの行動やその周りの映像を観てくつろいでいた。
一人一人の視線から観た映像はもちろん、角度を変えてその周りの状況を自由自在に観る事も、彼らの身体の状態まで知る事が出来る。
それは創造の戦士達の身体から世界を観、そして感じる疑似体験そのものだ。
彼ら「創造の戦士」にはこの量子解析装置と振動解析装置によるこの疑似体験システムの事は伝えてはいない。
彼らは創造の戦士50名は東京の拠点、羽田にも設置してある量子瞬間移動装置によって東京にテレポートされ、ブライアンとニーナはその映像を観ながら彼らの門出を祝っていた。みんな生き生きして希望に胸を膨らませているのが、自分の身体のように感じられる。
ニーナは、その映像を感じながらその横にゆったりとしたソファーに座っている
ブライアンに話しかけた。
「みんな、さっそうとしているわね。私も行ってみたいな」
「ん。みんなが地上の生活に落ち着いた頃、一緒に行って見よう」
「本当に!うれしい。また二人で冒険が出来るんだ」
「私も、二人で世界を冒険するのが長年の夢なんだよ」
「その時は、誰にも見られたくないな」
「もちろん、誰も監視している者はいないよ」
「でも、ブライアン、私達は彼らを、監視しているわけではないけど、それをみんな知らないのでしょう。」
「確かに、彼らにそれを伝えていないけど、それは彼らに意識してもらいたくないからだよ」
「でもね、ブライアン、誰かに見られているとすると、嫌な感じよ」
「それは、理解しているよ。でも考えてみて欲しい。彼らは私から見ると赤ん坊が歩き出したぐらいの感覚なんだよ。 世界は安定していると言っても、まだ反逆分子はまったくいなくなったわけではない。そんな中に入ってゆく彼らを見守るのは親の役目であるし、それに親はその子供の成長を見守る中で親としての成長もしようとしているなら、どこに問題がある? 私はそのような思いで観ているんだよ」
「ブライアン、ごめんなさい。あなたが100歳を越えた人生を生きていたのを
忘れていました。。。親ってすばらしいわね。。。。。」
「ミーナ、新しい身体になったのだから、ハネムーン旅行に出ようか」
「いつ?何処に」
「彼らの状況を見て、決めよう。近いうちに。東京はどうかな。」
「うれいしい!それじゃ、あらかじめ東京を勉強しておくわね」
「それは、いい。このシステムが役に立ちそうだね。」
「ここに、ミヨさんやショウがいるんだ、、、、、、、すっごい、楽しみ! ねえ、ブライアン、聞いていいかしら、恋敵のショウの事」
「どうしてだい」
「ミヨさんが恋した人はどんな人かなって、いつか奴はすごい奴だったと言ってたわね。どんな風だったの?」
「それは、あまり話したくない」
「どうして?クローンで生まれた私にとって、唯一母親のようなミヨさんの事を聞いてもあまり教えてくれないし、ショウの事も恋敵だったと言うだけで、教えてくれない」
「それは、知らないほうがいいかなと思うからなんだよ」
「ブライアン、私はもう子供じゃないのよ。どんな事も受け入れられるから、教てくれない?」
「わかったよ。正直に話そう。ミヨは僕にとって子供じゃない。未知の生涯をかけた女なのだから。そのほうが私も過去の重みが軽くなるかもしれない。。
。。。。
ミヨの事は正直、片思いなのであまり知らないが、ショウの事はよく知っている。奴は恋敵だけでなく、結社ナザレの主事が最も信頼していた男で、結社の組織上の秘密を握っていた。
そのため奴を拉致し拷問をした事があるんだよ」
「その拷問で命を落としたのね」
「そうだ。奴は思いつく限りの悲惨な拷問にも、秘密を吐かなかったために命
を落とした」
「どんな拷問だったの?その何がショウをすごい奴と思ったの?恋敵に恨みや
感情がなかったの?」
「ミヨ、厳しいな。それは僕の心の傷に触れる事になるかもしれないから、話したくない」
「ブライアン、私はどんな事にも耐えられるスゴイ女性なんだから、聞かせて。それにあなたの心のキズを知りたい。癒してあげる」
「僕のキズは自分で癒せるから大丈夫だよ」
「ブライアン、私はあなたの何?もし、あなたを癒せないなら私は何のためにそばにいるの?」
「わかった。わかったよ。ミヨ。本当に話していいんだな」
「もちろん」
「ショウを拷問したのは、ショウに世話になったナザレの連中だったんだ。彼らが奴を拉致するのに都合が良かったので、私は彼らを仲間に引き寄せた。奴の欠点は身近な人間を信頼し過ぎるところなのは知っていた。仲間に引き寄せた連中は正義心は持っていたが血気盛ん過ぎた者達だ。
私は、その正義心が薄っぺらな事を証明したかった事もあり、彼らを炊きつけショウを拷問するようにけしかけていた。
拷問がある一線を越えた時、彼らはエスカレートして人が変わったように嬉嬉として楽しみ始めた。彼らは、私からの評価を得たかったのかもしれないが、自分が世話になった人間に牙をむき出しにして暴力を振るった。
人間、基本的にはそう強いものではなく、拷問する者もされる者もそれほどの大差はない。だが、違っていたのは奴だ。
奴は手首と足首を切り落とされ、「お前は犬だ。犬だ。犬になれ」とみんなに引き回され、その激痛の中で必死に歩いていたが、その眼は周りの状況に影響されていなかった。その中でも裏切った彼らを恨むような目つきもせず、必死に生きていた。
普通、そのような中では、誰でも憎悪や逆に失望的な表情をするものだ。
奴にはもっとひどい事をし、結社結成のための火祭りにあげたが、憎いはずの私や奴の仲間にも憎悪の表情はなかった。
奴の最後が近づいてきて、引いて行く意識の中で初めて何かつぶやき始めた。
私は、やっと吐く気になったのかと思い、耳を傾けたが、その時
「許せ、、、、、ミヨ、、、、。。。」と言うのを聞いた。
私は愕然とした。
それほどに、この男は愛されたていたのかとも思い、それは同時に多くの意味で自分の敗北だった。
感情に巻き込まれやすい人間の性は知っている。しかし奴は違っていたのだ」
ミーナは話を聞きながら身体の中に、今までに感じたことのない異様な程の変化を感じ、その直後、押さえ切れない感情が猛烈な勢いで溢れ出し、止めどもない大粒の涙で顔をぬらしていた。
「これはなに! これは何!」
自分の中の何かが反応している。
ミーナはこの時、初めて同じ遺伝子をもつミヨの意識に触れ共鳴した。