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No.025 - 第三章 展開 7
抹殺者
真理の種、講座の一番年の若い愛ちゃんが、施術中に血相を変えて飛び込んできた。
「先生大変です。サヨ子が倒れてぐったりして動かないんです。」
「今どこにいる」
「家で横になっていますが、ご主人はうろたえているばかりで錯乱状態になっています。救急車を呼ぼうとしたのですが、先生を連れてくるから待っててくださいと言ってきました。今、リョウ子が付き添っています」
「直ぐ行ってみよう、彼女の家はどこにある」
「新宿方面ですから、ここから電車で30分ぐらい」
「新宿か、タクシーのほうが早いな」
移動している間、久しぶりの都内の変貌を目の当たりにし、驚いてもいた。味気のない町並みにしか映らない。銀座は、特殊な人間味あり活気がある。だが、この新宿にいたる町並みには、以前の若者であふれ小さな店がひしめき合っていた風景が消えていた。
そんな整然としている町並みを見ながらひょっとしたら抹殺者の手に落ちたのかもしれないと思った。そのような状況が増えていると感じてはいた。
着いてみると、サヨ子は小粋なマンションの寝室に、ほとんど意識がない状態で横たわっていた。リョウ子はどうして良いのか戸惑いながらも心配そうにサヨ子の髪をなでている。
診てみると心臓の鼓動は弱々しく、瞳孔は開き気味、やはり彼女は何者か抹殺者によって消されようとしていた。
そのような状況で運び込まれてきた人たちは、今まで少なからず診ている。その処置は慣れているので問題がないが、時間の経過やその状況によって運が悪いと脳に後遺症を残す面倒な事になる。
彼女の体の中に脳に梗塞を起こす量子レベルの波動を持った水分が送り込まれている。その場が心臓に干渉を創り、脳への梗塞を作り出している。
この渦を伴った異様な場を消し去る事は、今の私にとっては難しくはない。物理的な薬物ではなく量子の場であるからだ。身体全体に及ぶ陰と陽の量子群を反転し、身体に悪影響を持つ波動を保持して居座っている水を無害な量子状態へとシフトさせる。
この事で容易に脳細胞や心臓周辺の干渉を開放する事ができる。
幸い、症状を発してから丸一日経っていなかったので、数時間の後には彼女はほぼ回復したが、自分に何が起こったか皆目見当がつかない。それも当然な事なのだが、誰がその抹殺者かを彼女から探る知る必要があった。
ぼんやりしている彼女に、誰か感情を害するような関係者はいないか聞いてみた。
「思い当たる人はいません。人間関係は複雑になるようなことは避けていますので。」
彼女は心理学に興味があり、彼女なりに研究している。だが、カウンセリングを仕事にはしていない。ちょっとした店のデザイナーの仕事をしていて人間関係でトラブルや感情を害するような事はめったにない。まして量子場講座の内容や過去生などのオカルトっぽい話は数少ない友人にも話した事がない。他人の心理を分析するのに長けてはいるが、自分を他人に表現するのが、苦手なタイプだ。
彼女の家族の中には変わった人がいないかどうか確かめてみた。
「家族の中で私はいつも浮いている方で、変わっているのは私の方です」
「では、誰が一番変わっているとサヨ子を思っていると思う」
「それは主人でしょうね」
彼は狼狽えながら、外に買い物に出かけていた。
「最近、ご主人に変わった様子はなかった?」
「感情的なところが日増しに強くなっているように感じていましたが、もともと私の心理学の趣味や量子場のトレーニングについては関心を持ってはいませんでしたが、そのことが彼の感情を刺激しているのかなと思った事はあります」
それ以上は聞かなかったが、大体理解できた。サヨ子のご主人が感情の限度に達したのだろう。
その感情の劇高がある境界を越え、宇宙から監視している衛星がそのシグナルを受け、抹殺管理システムが動き出したのだ。
おそらくご主人はその行動を忘れているだろう。埋め込まれているチップの成せるところだ。
この抹殺管理システムは通常、自動的なもので実際に抹殺が完結したのかどうかを判別確認しない。ちょうど、空から多量の植物の種を巻き、その一つ一つが発芽したかどうかを確認しないのと同じだ。全体的に十分な収穫があればいいのだから。
だが、今の東京は敵の特別区にもなっているので設定が変更されている可能性はある。
世界地理から見て、日本は最も距離的に遠い国として、昔から主だった海外からの征
服者の目に映らなかったらしい。今回も幸運にも日本はこの金融支配から世界のどの国よりも遠くにいた。
しかし、ヨーロッパから始まって既に全世界のほとんどが手中に入っている現在、日本のようなチップ普及率の低い国や地域にターゲットが絞られてきているのは当然の事だった。
日本がチップの普及がほかの国より遅かったもう一つの理由に、仕事のない人たちに仕事をつくり、貧乏や危機に対してリスクを分散する運動が起こったからだ。
逆にそのことで人と人の結びつきが強まり、古き日本の良さを取り戻したところがある。
その中心が銀座であり、粋な日本人気質のメッカのようであった。だからここ銀座は「お金や便利さのために人間の身体にチップを埋め込むなんざやってられるかーっ」というような江戸っ子風潮が日本全体にも影響していた事もあってチップの埋め込みは少ない。
だが、ここ最近あの手この手でチップを埋め込みの甘い誘惑宣伝が目立つ。その裏ではその危険性を訴えている連中には容赦のない抹殺者と殺し屋集団が襲いかかっていた。
ミヨがやってきて、状況を一目で説明されるまでもなくさとった。
「さよ子、リョウコ、愛ちゃんも、がんばりましたね。とてもご苦労さまでした。もう大丈夫ですよ。ちょっとした危険が迫ってきていますが、体制を整えてがんばりましょう」
「はい!今日は本当にありがとうございました。がんばります」
久しぶりに二人で電車を利用して銀座までの帰り道、その途中で数人の追っ手がいるのに気がついた。
途中で彼らを巻き、私達を探す彼らを観察していたところ、彼らは仲間同士、目配せだけで意志を伝え合っている。彼らの顔は一人一人確認したが、覚えはない。
ミヨは内側の視点から彼らの素性を調べていた。おそらく彼らは殺し屋集団のである事は間違いないだろう。抹殺システムによる抹殺者は量子場を扱う私達には怖くはないが、殺し屋集団はあらゆる暴力を実行するので、一度捕まると厄介な問題になる。