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No.013 - 第一章 内と外の融合 6
意思と愛
私の人生にもやっと春が来たかのような毎日だったが、その反面、今後起きるであろう戦いに備えて、生活や仕事も計画的に進めていた。
朝起きて、お決まりの喫茶店で熱いコーヒーをすすり近くの公園や時にはミヨの車で自然の中に思索の時間を過ごす。次に大衆食堂で十分な食事を摂る。
午後からはちょっとした仕事を始めた。ミヨの発案で人の流れが多い都会のど真ん中に二人のアジトを設け、そこを代替医療の施術半分、もう半分を秘密の隠し部屋にしてそこで2年ほどは生活できるだけの食料や居住空間を設けた。
その境界はよく映画で見るような感じで、重厚な本棚で仕切られ、いくつかの仕掛けがどんな人にも見つける事を難しくしている。もし発覚したとしても中に侵入することは、ほとんど不可能に設計してある。たとえこのビルごと爆破されてもその特別あつらえの鋼鉄ユニットはその衝撃にも耐えるように設計されていた。
施術は出来るだけ、習いたての普通の整体治療に心がけたが、行っていたことは量子場をシフトさせる事だ。その仕事は私にとって、とても本質的なことであったので、自分の修行と更なる力の模索で毎日没頭する事ができた。
夕方は超高級レストランで食事をしながら世界情勢と敵の動向を分析し、必要な計画を立てる。その後にスポーツクラブで軽く汗を流すという以前の生活とは180度違った一日になっていた。
スポーツクラブでは直感やバランス感覚を取り戻すために、スカッシュという室内でのテニスのような競技を選んだ。
このゲームはいたって簡単で、高さ6メートル、長さ10メートル、幅が7メートル、テニスコートの半分以下のスペースの中で卓球の玉ほどの大きさのゴムボールを二人で相互に打ち合うが、前後左右に壁があり運動らしきものを長い間経験していなかった私にとっては大変だったが立体感覚を養うのにもってこいだ。
ミヨの運動能力は素晴らしく優れており、この競技においてもあっという間に上達してしまい、私は努力に努力をしてやっと着いて行く程度だったが、ゆっくりとだが、持ち前の運動能力を取り戻していった。
事故以来10年の間、ほとんど引きこもりのような生活の中にいた自分が、こんなにも早く変化して行く自分を見ているのは、あたかも内側の世界でインナージャニーをしているのに似ているとミヨに話した。
彼女は、
「インナージャニーや内側の世界は量子的な変化で、身体の運動は物理変化ですから、結局のところ量子変化がどれだけ起こせるかがキーなんです。」
「では、結局のところ心の変化が量子を変化させるわけだから、論理を持った心の速さがキーという事になるか?」
と応じた。
彼女は笑いながら
「そう、でももっと結局のところは愛よ!」
「では、愛は量子で言うところの何だろう」
「フィールドね」
「では結局のところフィールドが愛ということか?」
「いえ、フィールドとフィールドの間に引き合う力よ」
「では、フィールドは愛ではないという事にならないか」
「小さなフィールドも引き合う力フィールドも愛ですう!、、」
調子に乗って言葉遊びをしていた。彼女は愛に関しては命をかけている。
「量子は結局純粋な子供のように愛を求めているのよ」
「では、結局量子は意思と愛にしたがうことになる」
「そうなの、子供が父親と母親を見て育つように量子も二つの力に従い成長するのよ。」
なんて事だ。そんな彼女が戦いに挑もうとしている。
「いつかショウは内側の世界で既に瞬間移動しているように、この現実世界を移動する事になるわよ」
また彼女の身体の周りが輝いている。その輝きは以前ギョロメのオヤジの後姿に取り巻いていた光にも似ていた。